【第12回保育スキルアップ・オープンセミナー】病児保育の今とこれから(NPO法人ノーベル 高亜希先生)
2016.05.25
5月15日に大阪で開催した、第12回保育スキルアップ・オープンセミナーでは、
講義1「【多様化する保育】病児保育の今とこれから〜ノーベルでの事例を取り上げながら〜」
講義2「発達障害の子どもたちへの理解と対応の基礎〜自閉症スペクトラム障害を中心に〜」
の2つのテーマについてお話しいただきました。
今回は、講義1「【多様化する保育】病児保育の今とこれから〜ノーベルでの事例を取り上げながら〜」(NPO法人ノーベル 代表 高亜希先生)の講義内容を、参加者の感想・当日の写真を交えながらご紹介します。
病児保育の必要性
【子どもが生まれたら、女性だけが決断を迫られる】
地域性はあるが、平均的に60~70%の人が子どもが生まれるのを期に、仕事を辞めている。
【なぜ辞める?】
・家族のサポートが足りない
・職場の理解が進んでおらず、周囲の協力が得難い
ノーベルが関わった人でも「会社を辞めるので(病児保育を)退会したい」等、出産していったんは「子育てと仕事の両立」をやってみたが、諦めてしまう人も少なくない。
【わずか5分の1】
男性の育児参加は、例えば育児休暇を例に見ると、男性の育児休暇取得率はわずか2~3%にとどまる。また、1日のうち家事・育児にかける時間を見ると、女性の356分に対し、男性はわずか67分。女性は男性の5倍以上の時間を家事・育児にかけている。
実際に、ノーベルに相談に来られる方にも、泣いてしまわれる方など、育児・仕事の負担が大きく、ストレスを抱え追い込まれているお母さんもいる。
【11:1】
また、日本の「高齢者と子ども(家族)への公的支出比」はなんと11:1。
子どもへの投資に比べ、圧倒的に高齢者への投資が行われている、それがこの日本。
子育て世帯に対する支援が圧倒的に少ない日本社会。
経済的・精神的負担が親たちに重くのしかかっている。
【年間31.2日】
0才児の子どもが病気にかかり保育園を休む日数。
子どもが熱を出すのは当たり前のこと。
発熱・感染症などの病気を経験して、体の免疫機能を高めて成長する。
ただ、その理解が進まず、連続して会社を休むとクビになったりする人もいる。
子どもの病気で、会社をクビになる
これは実際に起こっていること、何とかしなければならない。
病児保育の現状
近年、待機児童問題が叫ばれ、保育園は徐々に増えているが、それに病児保育は伴っていない。まだまだ不足している。(保育園の4%程度にすぎない)
【なぜ増えないのか?】
運営が難しい。
保育園と違い、病児保育は子どもはいつ病気になるか分からないため、毎日の保育数が一定しない。一方で保育者は雇用し続ける必要があるため、収支が安定しない。
ノーベルでは保険型の会費制にし、運営を行っている。
これからの病児保育
病児保育を、住まいのエリア・所得・子どもの障がいの有無に関わらず、「誰もが利用したいときに利用できるセーフティネット」にしていきたい。
ノーベルでは、自治体や法人・組合と協働することで、月会費の負担を軽減し、利用できる方を増やしている。
また、大阪は特にひとり親家庭が多く、その半分は非正規雇用である実態がある。
ひとり親家庭は、子どもが病気になったとき、自分が休むしかない。非正規雇用だと有給がないため、収入が減り、休みが重なるとクビの恐れもある。負のスパイラルだ。
ノーベルでは寄付を募ることで、ひとり親家庭の方に格安で病児保育を提供している。
就職面接時、子どもがいると「病気になったときに預け先はありますか?」と聞かれることがある。
実際にノーベルを利用されていたあるひとり親家庭の方は、ノーベルのチラシを面接に持って行っき、「こういった病児保育を利用します」と答えると、面接に受かったという嬉しいケースもあった。
私達の役目はこうしたあらゆる環境におかれた親子に対し、セーフティネットを張ることだと思っている。
【病児保育は「保育」か「看護」か】
病児保育をやっていく中で、いつも議論されることがある。
それが、病児保育とは「保育」なのか「看護」なのかということ。
そこに答えはないと思っている。
保育の知識も必要であり、子どもの病気の知識も必要。
どちらも大切であり、両方の観点が必要だ。
【総合的なサポートと連携の時代】
子どもに対する保育の見立てを考える時代が来ている。
「保育」と「看護」が重なりあう病児保育のように、
「保育」と「医療」や「福祉」、「障がい」が互いに関わり合う時代になりつつある。
例えば、病児保育中に虐待の事実を発見し、児相へと相談することもあるかもしれない。
例えば、病児保育を行うスタッフが、お子さんに障がいがあることを発見する可能性もあり、そのことを親御さんに相談しても子どもが障がいの可能性があることを親御さんが認めようとしないかもしれない。この場合、子どもだけではなく親御さんへのケアも必要になってくる。もちろん、保育者自身へのケアも忘れてはいけない。
【子どもは誰が育てるのか?】
社会全体で育てる。
人と人とが助け合う仕組みを生み出し、安心して暮らせる社会を目指していきたい。
参加者の感想より
・病児保育の重要性はもともと認識していたつもりだが、データを示していただけて改めて実感できた。
・病児保育の現状について、深い部分まで知ることができた。初めて知ることが多かった。今後の参考にしていきたい。
・今の病児保育など、学校で聞けない保育の話しを聞け、また、働くママの現状も初めて知ることができた。
次回は、講義2
講義2「発達障害の子どもたちへの理解と対応の基礎〜自閉症スペクトラム障害を中心に〜」
(一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会 理事 村中直人先生)
の様子・内容をご紹介します。
どうぞお楽しみに!