【第12回保育スキルアップ・オープンセミナー】発達障害の子どもたちへの理解と対応の基礎(子ども・青少年育成支援協会 理事 村中直人先生)
2016.06.22
5月15日に大阪で開催した、第12回保育スキルアップ・オープンセミナーでは、
講義1「【多様化する保育】病児保育の今とこれから〜ノーベルでの事例を取り上げながら〜」
講義2「発達障害の子どもたちへの理解と対応の基礎〜自閉症スペクトラム障害を中心に〜」
の2つのテーマについてお話しいただきました。
今回は、講義2「発達障害の子どもたちへの理解と対応の基礎〜自閉症スペクトラム障害を中心に〜」 (一般社団法人子ども・青少年育成支援協会 理事 村中直人先生)の講義内容を、参加者の感想・当日の写真を交えながらご紹介します。
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この記事の目次
1:発達障害の種類
2:発達障害の統計
3:発達障害の原因
4:自閉症スペクトラムについて
5:発達障害のある子どもたちとの関わり方のスタンス
6:参加者の感想/おわりに
1:発達障害の種類
●発達障害には多くの種類があり、それぞれの障害が重なり合うことがある。
幼ければ幼いほど、症状が分かりにくいという特徴がある。
2:発達障害の統計
●発達障害の子どもたちはどのくらいいるのか?
(2012年のデータ)
一般の小中学校にいる発達障害の子どもの比率は・・・6.5%(1クラスに約2人)
→つまり全国で・・・68万人 の子どもたちが発達障害にあるとされている。
しかし、このデータは特別支援学校に通う子どもたちのデータは含まれていないので、それを含めるともっと増える。
3:発達障害の原因
・発達障害の明確な原因は解明されていない
・先天的な脳と神経系の障害
・育児の方法や本人の性格、環境のせいではない
発達障害の特徴が「治る」ことはないけれども、子どもたちは必ず成長するし、周囲の理解や環境調整によって、障害が「障害ではなくなる」ことはある。
4:自閉症スペクトラムについて
●自閉症スペクトラムとは・・・
自閉症やアスペルガー症候群をはじめ、自閉的な特徴のある状態を総称したものを自閉症スペクトラム(スペクトラム=連続性)という。
自閉的な特徴は軽度なものから重度なものもあり、
かつ知的発達の遅れを伴わないものから、伴うものまで幅広くなっている。
健常児(定型発達児)と自閉症の間に明確な境界線はない。
人間の特徴を説明するものさしの1つであり、
大なり小なり、皆あること。
●自閉症の基本特性
・人との関わりやコミュニケーションの困難
→空気を読むことが苦手。感覚的に「そうだよね」と思っていることが分からない(例:「まっすぐ帰るんだよ」と言うと、どうやって真っ直ぐ(直線上に)帰るのか?と解釈する)
→人と人でないものをあまり区別せずに振る舞う特徴がある
・想像力/見通しの困難
→他者の感情など、人の内側を推測することが極端に苦手。
→時間の感覚が「細切れの写真(1枚1枚の写真)」であり、つながっていない状態ととらえている。
・こだわりや反復的な行動、興味の限定
→こだわりが強く、同じことをやり続ける、固執する。(やっていることを)変えられない・やめられない・(新しいことを)始められない
・知覚の過敏さ
→「特定の音」や「光の強弱」、味覚など感覚刺激に対する過敏さや鈍感さがある
●ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性
・不注意→注意散漫、物忘れが多い
・衝動性→自己統制が難しく、思い立ったらすぐ行動してしまう
・多動性→じっとしていることが難しく、常に動いている
ADHDの子どもたちはその行動から「アクセルが踏まれすぎている」と思われがちだが、行動の抑制・静止・制御が苦手で「ブレーキ」が効きにくいという特性がある。
5:発達障害のある子どもたちとの関わり方のスタンス
●氷山モデル
子どもたちの「困った行動」や「気になる行動」の背景には、必ず何らかの「子どもなりの理由」がある。
→目に見える子どもたちの行動を何とかするのは意味が無い。「子どもたちがなぜそのような行動をとるのか?」を考えてあげることが大切。
氷山を囲む塩分濃度(=周囲の理解)が変われば、水面に出てくる困った行動(=氷山)は減る。
子どもたちのそばにいる人間の理解や対応方法で、発達障害は困難が軽減されたり、生活上の障害ではなくなったりする。
●関わり方の基本
1:話しかけは、短く具体的に
2:否定語を使わず、肯定文で表現する
3:直接的でない表現は避ける
4:不安や混乱の回避
5:感覚過敏への配慮をする
6:視覚的支援、構造化支援
・「ちゃんとしなさい」「走らないで」などはNGワード。子どもたちには通じない。
ちゃんとするとはどういうイメージで、一体何を求めているかを説明することを話す側が放棄している。コミュニケーションする側の怠慢。
・視覚化/構造化の具体例
-やってほしいことは手順を具体的に1つずつ教える
-イラストの活用
-行動スケジュール表
-部屋の構造化
※自閉症の子どもたちは耳から入る情報が得意ではなく、目から入る情報の方が得意なことが多い。その場合は、目から確認できるものを用意してあげた方が良い。
●パニックについて
・パニックとは
なんらかの理由で自分の感情がコントロールしきれなくなり、大声を上げたり、物を投げたり、自分の腕を噛んだり、頭を床などに打ちつけたりする行為。中には、全く動かなくなるなど静かなパニックの場合もある
・パニックには必ず原因がある
不快な感覚や、こだわりの否定などパニックには必ず原因がある。その原因を見極める観察力を身につけることが大切。
・パニックが起こったら
基本対応は「落ち着くまで待つ」こと。自傷行為がある場合は間に手を入れる、クッションを入れるなど最小限の危機回避はするも、やめさせようとしないこと。逆効果になる。
「待つ」以外の行動(制止する/なだめる/声掛けするなど)は効果的でない。
参加者の感想より
・発達障害の子どもへの関わりをとても考えさせられました。今まで見てきた子どもたちを思い返して考える機会がありよかったです。
・具体的な話もあり、現場ですぐに役立てられる内容でした。
・ケーススタディもあり、勉強になりました。もっと詳しく聞きたかった!
1時間半ではとても収まらないような濃密な講義となりました。(今回ご紹介した内容もほんの一部です)
参加者の皆様からも「もっと時間が欲しかった」との声をいただき、このテーマへの関心の高さを感じました。(次回以降のセミナーの参考とさせていただきます)
村中先生が所属されている(一社)子ども・青少年育成支援協会は関西を中心に活動されており、定期的にシンポジウムを開催されているようです。ご関心のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。
次回のセミナーは9月に東京での開催を予定しております。
どうぞご期待ください。
講師プロフィール
一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会 理事
村中直人 氏
大阪市立大学生活科学部人間福祉学科を卒業後、京都文教大学大学院臨床心理学研究科を修了、同年臨床心理士取得。
その後、大阪市教育センターにて嘱託心理教育相談員、大阪市のスクールカウンセラーとして勤務した後、2009年一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会の設立に参画。同法人にて発達障害など特別なニーズのあるこどもたちへの支援活動「あすはな先生」の立ち上げに従事し、子どもたちや保護者への支援を多数行う。
現在は全国に正しい知識をもった理解のある支援者を増やすべく「発達障害学習支援サポーター」の育成に力を注いでいる