【セミナーレポート(前編)】救急救命「子どもの命を守る、保育者であるあなたができること」
2013.06.07
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
事務局の梅村です。
本日は、6/1に開催されました、第3回保育スキルアップ・オープンセミナーご報告の前半として、
第1部救急救命講習「子どもの命を守る 保育者であるあなたができること」の模様をお伝えします。
第1部救急救命講習の講師は遠藤登氏。
保育士と、保育の事故予防小児救急法インストラクター資格をお持ちで、当協会の「認定病児保育スペシャリスト」資格取得web講座でも「病児保育のリスクマネジメント」「心肺蘇生・気道異物の除去」をご担当いただいております。
「予防」に対しての注意喚起、そして「マネキンを用いた胸骨圧迫の実践」、大きく分けて2部構成で講義を進めてくださいました。
「事故は起こるもの」予防の重要性
まずは「予防」に関する講義。
救急救命の講習は、心臓・呼吸が止まった人への手技を学ぶイメージが大きいので、「講習で学んだ知識が役に立つ場面がないことが一番」と言われることがあります。しかし、小児救急は、本来「予防」と「心肺蘇生」の一連の流れだと考える必要があります。
ケガ予防と環境づくりも重要な要素であり、「もしものとき」のみに意識が向いてはいけない、と注意を促します。
赤ちゃんや子どもが心停止する前に治療が行われた場合の生存率が70%であるのに対し、心停止後に治療が行われた場合の生存率は10%である。
具体的な数字データを用いて「予防」がいかに重要か、心肺蘇生の方法を知っているだけでは子どもの命を救うことは難しいということを示唆します。
ハインリッヒの法則によれば、1つの重大な事故の背景には、29の軽微な事故があり、300ものヒヤリ・ハットが存在します。
このヒヤリ・ハットに関しても2つの考え方があります。「事故予防」と「ケガ予防」という考え方です。
「事故予防」は、事故は起こってはいけないものとして、ヒヤリ・ハットの段階で事故を無くそうとするもの。「ケガ予防」は、「事故は起こるもの」として捉え、ヒヤリ・ハットが起こった時点でそれを事故として捉え、その上でいかに「ケガ」を予防できるか考えるというものです。
例えば、
”高いところに子どもが上って落ちそうになったが、危うく受け止めることができた”というヒヤリ・ハットの事例があったとします。その場合、「事故予防」という観点から考えると、ヒヤリ・ハットの段階で防ぎ、事故を予防することができた、と考えます。「ケガ予防」という観点から考えると、落ちそうになったこと自体を事故として捉え、ケガを防ぐことができた、と考えます。
「事故は起こるものである」そう捉え、いかにケガを軽くするような環境作りができるか、そういったことに気を配ることが大事だと語る遠藤氏。
子どもが転ぶことは防ぐことができません。しかし、転んだ時に子どもがケガをするかどうかということは、保育者である私たちが日頃から環境に注意を払っているかどうかにかかっています。
年齢など発達の程度に応じて、さまざまな理由で事故は起こるものです。バランスが悪いことにより、なにをするでもなく転んでしまう時期もあれば、行動の先にある危険の予測なく、興味のままに行動してケガをしてしまう時期もあります。大人の真似をしようとして、求める結果に神経や筋力が追い付かずにケガをしてしまうこともあります。
「事故は起こるもの」
まずはこのことを頭に入れたうえで、大人が子どものケガを予防してあげなくてはならないのです。では、ケガ予防のための環境整備の際には、どのようなことに気を付けなければならないのでしょうか。
ケガ予防のためには同じイメージの共有を
「三角1つ、丸2つを使ってください」
こんな指示の下、参加者各々が自由に絵を描くワークショップでも遠藤氏は大事なことを伝えてくれました。
参加者の方々はさまざまな絵を描いてくれました。きつね、車、アイスクリーム、ねずみ・・・「三角1つ、丸2つを使ってください」と、同じ指示を共有していても、そこから抱くイメージは人により異なります。
ケガ予防の場面でも同じことが言えます。
「気を付けましょう」「安全にしましょう」という言葉を共有していても、各個人のものの見方、気持ちの動き方は異なります。しっかりと全員が同じイメージを共有していることが、ケガ予防の環境作りには大切なことなのです。
危険に対する認識の違いが存在することをまず認め、それを保育者同士、そして保護者と共有し合うことではじめて、「子どもの命を守ろう」という想いに応える具体的な予防策が実現されるのです。
救急救命は1人の力では成し遂げられない
「心臓はどこにありますか?」
こんな問いかけからマネキンを用いた救急救命の実習に移っていきました。
意外と分からないものです。心臓は、胸骨と背骨に挟まれるようにして、胸の真ん中にあります。このことから胸骨圧迫という言葉があり、胸の真ん中を押すようにしなくてはならないのです。
胸骨圧迫のポイントは以下。
・胸の真ん中を押す
・小児:手の付け根で押す
・乳児:指2本を縦に置いて押す
・深く 1/3より浅くならないように、また胸壁は押したままではなく一回一回元の状態に戻す
・速く 1分間に100回のペースで 速い分には構わないが、100回/分よりは遅くならないように
・強く 参加者の方々も初めは遠慮がちでしたが、思ったより強く押さなければならないようです
まずは一人ずつ1分間押してみることから始めます。ここで気が付いたことは、たった1分間でもかなりの体力を必要とするということ。
救急車を呼んでから実際に到着するまでの平均時間は、都内で8分。1人で救急車到着まで胸骨圧迫を続けることは困難です。よって、救急救命の方法は、誰か1人が知っていればよいというものではないのです。
2分で次の人に交代することが理想です。救急救命は一人の力では成し遂げることができず、周りの人の助けが必要、この大事な事実を参加者の方々に身をもって伝えた後で、胸骨圧迫を次の人に交代する練習に入ります。
1回目は、交代する人が胸骨圧迫の方法を知っている場合。2回目は、交代する人が、助ける気はあるけれども方法は知らない場合。
「胸骨圧迫法、できますか?交代できますか?」「やったことがありません」
「わたしのやる様子を見て、マネをしてください。胸の真ん中を強く早く押します。イチ、ニ、サン、で交代するので同じ速さで圧迫を続けてください」
これらさまざまなシチュエーションを想定しておくことが大事なのです。保育所、学校、街中、場面により、その時に必要とされる行動は変わっていきます。
~受講者アンケートより~
●「職場に戻り、皆の思いが同じになるようまめに話し合いをしていこうと思います。守れる命、助けたいです。」
●「実は手技以上に『やってみる』『声掛けをする』ということが大切なことと感じます」
周りの方と情報を共有しておくこと、さまざまな場面を想定しておくこと。胸骨圧迫の実際の方法だけに留まらず、大切な心構えを教えてくれる実践的な講習でした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「事故は起こるものである」
今回の講習の大事な心構え。この心構えを自分のものだけにするのではなく、周りの保育者、そして保護者の方々、あらゆる人々と共有する。
周りの人々と協力して子どもの命を守っていくことが大切だということを、参加者の方々、そしてこれを読んでくださっているみなさまに少しでも伝わっていれば幸いです。
第2部アートセラピーワークショップの模様は近日公開予定ですので、ぜひチェックしてみてください!
▼「認定病児保育スペシャリスト」資格取得web講座のお申込みはこちらから
http://sickchild-care.jp/before/
▼メールニュースでも情報を配信しております。まだ登録がお済でない方はいますぐご登録を!
http://sickchild-care.jp/mail/
▼Facebookでも情報発信中!
http://www.facebook.com/JaSCA0918
関連キーワード: セミナー, リスクマネジメント, 心肺蘇生, 救急救命