反応や意識がなくても呼吸が確認できる時、あなたはどうしますか?~病児保育の仕事に求められる心肺蘇生法の実施
2015.11.19
(*本記事は2014年9月27日(土)に認定病児保育スペシャリスト・web講座の受講生向けで実施した、第8回保育スキルアップ・オープンセミナー特別講座“救急救命講座「病児保育の仕事に求められる心肺蘇生法の実施」”の内容です。認定者・受講生に限定して公開していましたが、本日よりどなたでもご覧いただけます)
セミナーのテーマに窒息をとりあげたのは、乳幼児の不慮の事故は窒息が原因の上位にあること、重度な窒息に陥ると死亡、あるいは生命をとりとめても脳の機能に支障をきたす可能性など、一般的なケガに比べた窒息の怖さを多くの方に知っていただきたかったからです。
病児保育中であっても、子どもの窒息事故が起きる可能性はあります。
食事以外の時間にも嘔吐したものが詰まる、入眠時にミルクやごはんを吐き戻してしまうことによる死亡事故も実際に起きています。
反応や意識がなくても呼吸が確認できる時、あなたはどうしますか?
心肺蘇生法や気道異物の除去について、これまでも「認定病児保育スペシャリスト」の認定試験(2次試験)の問題で、反応や意識、呼吸も確認できないことを前提として適切な対処ができるかを出題してきました。
(過去問題はこちらでご確認ください)
心肺蘇生法→http://sickchild-care.jp/kakomon/4244/
気道異物の除去→http://sickchild-care.jp/kakomon/5066/
今回の認定者・受講生向け特別講座では、さらにもう一歩踏み込んで、「反応や意識がなくても呼吸が確認できれば、もう生命の危険はないのか」ということを学びました。
そもそも「反応や意識がある」とはどういう状態のことなのでしょうか?
「反応がある」とは目的を持った動作があることを指します。そしてふだんと同じ動きができているかどうかで判断できるものです。
ふだん私たちが呼吸すると、胸やおなかも動きます。
ところが心停止が起こった直後に起きることがある「死戦期呼吸(反射的に身体の中にたまった呼吸が口からあえぐように出る)」では、胸やおなかは動きません。これは身体の空気が漏れ出している状態で、ふだんの呼吸とは全く異なります。
(参考)死戦期呼吸の動画をご覧いただくことができます。
出典:レールダルジャパン株式会社
つまり、最悪の場合、確認できたと思った呼吸は「死戦期呼吸」の可能性もあるのです。
どのような呼吸なのかの見極めができていない状態では、「呼吸ができたら、生命の危険がないとは言いきれない」のです。
呼吸があったとしても、継続的な呼吸(だんだん弱くなるなどの傾向はないか)の確認があってこそ、次に正しい手当て(対処)へと進むことができます。
講師の遠藤ノボル先生が強調していたのは、生きているか死んでいるか、呼吸をしているか呼吸をしていないかなど、子どもの生命は2択で選択するものではないこと、早期に普段と違う異常さに気がつくことが子どもを救うためのポイントになる !ということでした。
では、手当て(対処)のポイントとは?
手当て(対処)のポイントは「状態を悪化させない」ために行うことは誰でも思いつきますが、保育者として必要な視点を加えると、このほかに2つあります。
1つめは「不安を取り除く」こと。これは苦しんでいる子どもの不安を取り除くこと、その場に立ち会っていない保護者の不安を取り除くことの両面があります。
子どもの不安を取り除くためには、子どもの名前を呼んだり、子どもの目線に入ることが有効です。
保護者に対しては「どういう状況で何が起こり、(保育者のあなたが)どう対処した、対処した結果どうなったか」をきちんと説明することが求められます。
2つめは「子どもの生命をのびやかに育む保育環境づくり」です。
どんなに適切に保育しても事故は防げないこともあります。ですがこうした事実をふまえたうえで、のびやかに、病児保育では安静にできる環境づくりが危機管理の最終目標なのです。
保育環境づくりは、認定試験(2次試験)でも「リスクマネジメントのプロセス」として出題していますので、ご確認ください。
【リスクマネジメントのプロセス】第3回資格認定試験のポイントと解説②
http://sickchild-care.jp/kakomon/5350/
保育者が行う手当て~腹部突き上げ法(1歳以上)~
特別講座では、胸骨圧迫、気道確保、人工呼吸、背部叩打法、腹部突き上げ法についてそれぞれ実技を行い、資格取得web講座で学んだ内容を再確認しました。
今回は、腹部突き上げ法の手順をご紹介します。
手順は以下の通りです。
まず子どもの不安を取り除くために声をかけます
「後ろに回るね。助けてあげるね。」
↓
両手を脇の下から入れて、片手は握りこぶしを作る(親指は外側に、こぶしは上を向ける)。
↓
おへその上に握りこぶしをあてる
↓
もう片方の手で握りこぶしをつつむ
↓
上にあげるように5回強く押し上げる
押し上げる時は横隔膜(胸部と腹部を隔てている筋肉。横隔膜が上下することで呼吸を助ける働きをしています。)を意識することが大切です。
横隔膜を上に押し上げることで、肺が圧縮されて、空気鉄砲のように異物を押し上げる効果が期待できます。
なお、腹部突き上げ法は固いもの(プチトマト、りんご)の除去に効果が大きいそうです。
公式テキスト(P120)では②腹部突き上げ法について、「異物が除去できたとしても、必ず緊急搬送し、救急車が来たらこの方法を行ったことを伝える。」の記述があります。
これは腹部突き上げ法により、身体の外からは見えない臓器を痛めることがあるためです。
なぜ?の理由を理解して忘れずに対処できるようにしましょう。
詰まったものを飲み物で流し込むのは、どうなのか?
参加者から「子どもが食事中(食べ物をつまらせて苦しそうにしている時)にお茶を飲ませたりしますが、飲み物を飲ませるのはどうですか?」という質問がありました。
遠藤先生の答えは「飲み物で流し込むことができるとしたら、それは軽度のもので、咳で出てくるもの程度ものしかない」とのお話でした。
さらに3つのデメリットをご説明いただきました。
・もともとノドに物が詰まっているので、飲み物を飲み込むこと自体が苦痛になってしまう
・詰まったものが水分を含むことで粘着性を持ったり、膨張してしまうことがある
(赤ちゃんせんべいやウエハースなどが該当します。詳しくは別途午前中のセミナーでお話しいただいています。)
・子ども自身があわててしまって、普段だったら飲み込んだり吐き出してしまうことができるものを、飲み物を飲むことでさらに奥につまらせてしまう可能性がある
苦しそうにしている子どもに飲み物を飲ませることは、かえって危険だということがわかります。
こうした場面で保育者がとるべき行動は、子どもの不安を少しでも取り除いてから「まずは自分で(咳をして)出してごらん」と促すことです。子どもが咳をしても異物が出ないようだったら、背部叩打法、腹部突き上げ法(1歳以上)もしくは胸部圧迫法(1歳未満および腹部に腕が回せない場合)を異物が除去できるまで交互に繰り返し行う、次の手順に進めばよいのです。
午前中のセミナーの内容もあわせてご覧ください
この日の午前中は「5~6分が生命の分かれ目!保育の現場に潜む『子どもの窒息』即時対処法」と題して、保育に関わる方であればどなたでも参加いただけるセミナーでした。
午前中のセミナーの内容はこちらでご紹介しています。
(この記事ではご紹介していない、特別講座の内容も一部含まれています。あわせてのチェックを強くおすすめします!)
http://sickchild-care.jp/activity/5545/
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