【乳児の気道異物除去】第3回資格認定試験のポイントと解説①(「心肺蘇生法・気道異物の除去」より)
2014.08.26
バナナを食べた子どもが目の前で急に苦しみ始めたら、あなたはどうしますか?
第3回 認定病児保育スペシャリスト認定試験では「気道異物の除去」のロールプレイを出題しました。
食べものや誤飲したものが気管(喉頭に続き、左右の気管支に分かれるまでの約10㎝の細長い管)に入ってしまうことを「誤えん」といいます。「誤えん」により、気道(鼻から口から吸った空気が肺に達するまでの通り道)が完全にふさがれる窒息状態では、5~6分で生命が危険にさらされてしまいます。気道異物の除去は、こうした窒息状態になった場合に詰まった異物を除去するために行うものです。病児保育中のリスクとして誰もがすばやく状況を理解し、適切な対応を行うことが求められます。
【参考:公式テキスト第10章「病児保育中のリスク」(103ページ)】
特に今回は、小児(1歳~7歳)、子ども(8歳~)や大人の気道異物の除去と異なる点がある「乳児」の気道異物の除去について、出題しました。
試験課題
(状況設定)
あなたは病児保育施設に勤務しています。
おやつの時間、バナナを食べていた11か月の男の子コタロウくんが急に苦しみだしました。
意識はありますが、咳もできない様子で、苦しそうに手足をばたつかせています。
※119番は通報済と仮定します
※処置の間、コタロウくんは一切反応を返さないものとします。
(問1&問2) 制限時間:1分以内に回答用紙に記入、記入後1分以内で発表 ※合計2分以内
苦しそうにしているお子さんは、どういう状態(何が起こっている)と考えられますか。回答用紙に記入してください。問1で記入した内容を読み上げてください。
(問3) 制限時間:3分以内
設定にある119番通報のあとに引き続き行うべきあなたの処置について、マネキンをコタロウくんに見立て、何の動作をするのかを口頭で説明(実況)しながら、実際にその動作を行ってください。同じ動作を複数回行う場合には、その動作を何回実施するのかも、正確に実況ください。
合格の基準
この設問では、下記の3点について判定を行いました。
●保育中に事故が発生した場合に状況を正しく把握できるか
●乳児に対する気道異物の除去(窒息解除)の手順を正しく理解しているか
●乳児に対する気道異物の除去(窒息解除)正確に実施できるか
具体的には、「背部叩打法」「胸部圧迫(突き上げ)法」の2つの手法を正しく実施できるかを判定しました。
ポイント解説
この設問の採点基準です。
(問1&問2)
バナナを食べていたコタロウくんが急に手足をばたつかせて苦しそうにしている場合、考えられるのはどのような状況でしょうか?
状況を判断するポイントの一つはコタロウくんの「意識はある」という点です。呼びかけへの反応がない、あるいは普段通りの呼吸がないと判断できる場合は、心肺蘇生法(CPR)を行う必要が生じますが、今回の出題のケースではあてはまりません。また「咳もできない様子」であることから、気道(のど)に異物(バナナ)が詰まる「誤えん」により、窒息状態になっていると考えることができます。
(問3)
11ヶ月のコタロウくんは「乳児」ですので、気道異物の除去には「背部叩打法」と「胸部圧迫(突き上げ)法」を行います。どちらの方法を先に実施してもよいのですが、1つの方法を終える都度に口の中を確認し、取れなかった場合はもう1つの方法を行います。異物が除去できるまで2つの方法を交互に繰り返し行います。
<模範解答例>
試験の設定に基づき、順に手順を確認していきましょう。注:文中の「★」は所作の内容
(問1&問2)
★コタロウくんの気道(のど)に異物(バナナ)が詰まってしまっています。「誤えん」により、窒息状態になっていると考えられます。
(問3)
(1) 「背部叩打法」を実施した
(注:後述する「胸部圧迫(突き上げ法)」を先に実施してもよい)
・マネキンのあごをしっかり抑えた
・自分の「腕」または「ひざ」の上に乗せた
・頭を身体より低く保った
・手のひらの付け根で叩いた
・背中の真ん中あたりを圧迫した
・5回叩いた
・強く叩いた
★「背部叩打法」を実施します。
★コタロウくんのあごをしっかりと支えて、(保育者の)腕またはひざにのせてうつ伏せにします。
★コタロウくんの頭を身体より低く保ちます。
★手のひらの付け根を使って、背中の肩甲骨のあいだを叩きます。「1、2、3、4、5」と数えながら強く叩きます。
↓
(2)ひとつの動作を終える都度、口の中を確認した
★コタロウくんの異物(バナナ)が除去できるか、口の中を確認します。除去できません。
↓
(3)「胸部圧迫(突き上げ)法」を実施した
(前述した「背部叩打法」を先に実施してもよい)
・マネキンを仰向けにした
・首をしっかり支えた
・頭を身体より低く下げた
・指2本で圧迫した
・胸の真ん中を圧迫した
・5回圧迫した
・強く圧迫した
★次に胸部圧迫(突き上げ)法を実施します。
★コタロウくんを仰向けにし、後頭部と首をしっかり支えます。
★コタロウくんの頭を身体より低く保ちます。
★コタロウくんは乳児なので、胸の真ん中を2本指で圧迫します。2本指で、胸の厚さの3分の1~2分の1ぐらいへこむぐらいまで強く、「1、2、3、4、5」と数えながら圧迫します。
↓
(4) 背部叩打法と胸部圧迫(突き上げ)法を交互に実施した
★(問題の設定で)119番はすでに通報しているので、救急隊員が到着するまで、背部叩打法と胸部圧迫(突き上げ)法を交互に繰り返し実施します。
子どもの不慮の死亡事故において、「窒息」は0歳では1位、1~4歳では3位と、上位を占めています。(厚生労働省 平成24年人口動態調査より)
今回は食べものによる乳児の窒息事例を出題しましたが、乳児の場合はクッションやふとんで鼻・口を覆われることで窒息することもあります。
子ども自身は危険を認識し回避することができないのですから、子どもが事故にあうリスクを減らすためには、保育者である大人の事故感知力と注意力が必要不可欠です。
気道異物除去の動画は認定病児保育スペシャリスト資格取得web講座にてご覧いただけます。受講生の方は、【講義13 心肺蘇生法・気道異物の除去】をあわせてご確認ください。
▼参考:赤ちゃんの気道異物への対応 (出典:レールダル メディカル ジャパン株式会社)
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