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【突撃★隣の病児保育!】子育て先進県 福井の病児保育室「病児デイケア ままのて」-病児保育は安心感を持ってもらう場-

2017.07.03

福井県は共働き率が日本で1位。
その福井県内でも充実した子育て支援体制がある越前市の病児デイケア ままのてを訪問しました。

地方都市ならではの病児保育のあり方とは? 病児保育室運営を通して働く親を支える思いとは?
施設運営責任者:野尻事務長にお話を伺いました。

病児デイケア「ままのて」

野尻医院の4階に「病児デイケア 『ままのて』」があります。安全のため玄関の扉はオートロックになっています。

 

 開設のきっかけは自分達が困っていたから

-「ままのて」さんは、越前市で唯一の病児病後児保育施設ですが、13年前にこちらを開設したきっかけはどういったことでしたか?

自分達の子どもが病気をした時に困っていたということです。夫は病院の院長で、私は事務全般を担当しています。職員をなかなか休ませてあげられないのに、子どもの病気のために私が休むわけにいかず、坐薬を入れて熱を下げて保育園に預かってもらったり、早朝に少し離れた実家へ熱の子どもを連れていったりするなど、なんとかやりくりをしていました。

そんな時に知事と地区の女性とが対話する会に参加しました。そこで、子育てしながら仕事をする事の大変さ、女性が子育てのために仕事を辞めなくてもよい方策を考えてほしいと訴えました。そうしたら、しばらくしてから県と市の職員の方がいらして、「実はいま、病児保育の充実が福井県のマニフェストにあります。病院をしているのであれば、ここで病児保育をしたらどうですか」という提案がありました。

当時、病児保育は私にとっては初めて聞く言葉でしたし、外来でお子さんの診察はしていましたが、お子さんを預かるというハードルをどうするかを考えました。夫も最初「病児保育まではどうかな」といった反応だったので、随分話をしました。でも、我が家が困っていることは世間のご家庭も困っているのではないかと思いましたし、せっかく提案もされたのだからということで、病児保育を始めることを決めました。

 

この子が家族だったら、我が子だったらどうするかということを大切にしたいと思っています

-利用するご家庭からの予約やキャンセルはどのような方法で受け付けているのですか?

すべて電話です。夕方6時まではスタッフが受け付けていますが、6時以降の夜間と早朝は「ままのて」携帯電話に転送していて、私が対応しています。

当日の利用者の方には、お預かり開始の8時30分より前のタイミング、朝の7時~7時30分の間にその日利用するかしないかのお電話をいただくようにしています。

-キャンセルだけではなく、利用する人にもお電話いただくのですか?

はい、昨日は嘔吐がなかったのに、今朝は嘔吐があったりすると、お部屋やスタッフの配置を変更しないといけません。なので、そのお電話で前日予約した時から夜の様子の変化を確認するようにしています。

大変だけど朝の電話での聞き取りは大事で、そこで決まることが多いです。メールでやったらどうかとも言われていますが、それだと一方通行になってしまい、確認できないとメール待ちになってしまったりします。保護者はただでさえ朝仕事に行けるかどうか切迫している時に(メールでのやりとりは)時間がもったいないです。

-それによって自分の仕事どうするかとか、会社と相談しないといけなくなりますね

朝のお子さんの状態の聞き取りをしていると「仕事に遅刻します。間に合わない。」と保護者から言われることがありますが、仕事に行けないわけではないのだから、「お子さんが病気の時はちょっとの理解が欲しいし、会社にも30分、1時間の遅刻はお願いしてください。」とお話しします。帰りも延長保育を希望されることもありますが、「お子さんの病気の時は少しの時間早く返してもらえるように言えるといいですね」とお話しすることもあります。

お子さんは、お母さんの大変なことはちゃんとわかっていますし、我慢できることはしています。自分のために保護者が遅刻してくれた、いつもより早くお迎えにきてくれた努力というのはお子さんに伝わるし、大きくなっても覚えているだろうなと、私は思います。

ですので、何日もお熱が続くときなどお子さんの状況によっては、受け入れ可能であってもこちらからお母さんに「今日はお休みしてください」と伝える時もあります。お母さんに看てもらうとお熱がスーッと下がる時もあるんですよ。

サービスがあるからなんでも使えばいいということではなくて、子どもはきっと見ていたり感じていたりするだろうと。

午前中の診察を終えた院長がお預かりのお子さんを回診中。 お子さんのお食事は医院の調理室で作られたものを提供。

午前中の診察を終えた院長がお預かりのお子さんを回診中。
お子さんのお食事は医院の調理室で作られたものを提供。

-朝のお子さんの状態の聞き取りは病児保育における重要な場面ですよね。私たちも認定病児スペシャリスト資格取得web講座のなかでお知らせしている部分でもあります。
福井県の場合は県庁所在地の福井市には4つ、その他の県内市町村に18(「ままのて」を含む)、あわせて22の病児保育施設があるようですが、施設同士の繋がりというのはありますか? 

開室当初から広域利用はやっていますね(近隣3市3町の在住者も利用可能)。病気を持って隣町の大きな病院で手術をされていて、普段その病院に通われているお子さんは病気の時もその病院で診てもらった方が安心です。お住まいは越前市で、お仕事はお隣の町だったりすると、便利のよい方で預けられた方がいい時もあります。病児保育施設自体はお互いさまといった感じで受け入れているので特に問題はなく、あとの事務関係は市役所間でお願いしています。利用以外の面、例えば担当者が定期的に会うとか情報共有といったことは、あまりないですね。

-施設同士の情報共有が少ないとなると、スタッフの方が受けられている研修など、どのように職員のスキルアップをはかっていますか?

病児保育施設の職員向けの研修は、なかなかありませんね。子育て研修や緊急時の対応など、一般の保育園の保育士向けの研修のお知らせは県や市からいただいています。開設当初はお知らせが来なかったのですが、何年か連携する中で仲間に入れてほしいとお願いをして、現在に至っています。

また、「ままのて」の中では定期的にミーティングでスタッフ同士が話しあっていますね。状況に応じて、たまたま看護師の視点だったり、保育士の視点だったりするけれど、この子が家族だったら、我が子だったらどうするかということを大切にしたいと思っています。

睡眠が必要なお子さんのための遮音・遮光ができる「ねんねの部屋」

睡眠が必要なお子さんのための遮音・遮光ができる「ねんねの部屋」

 

―お預かりのなかで利用する保護者からのクレームはありますか?

まれにクレームがあることもありますよ。大事なお子さんをお預かりするので、丁寧に説明します。そのクレームが普段の子育てのしんどさや生活のしんどさから来る場合もあるので、しっかり話を聞ききこんで、受け止めることを心がけています。

「ままのて」入り口に貼られていた、利用する保護者へのメッセージ

「ままのて」入り口に貼られている、利用する保護者へのメッセージ

 

特に「ままのて」をご利用せざるえないひとり親のご家庭は、普段の生活や子育てのしんどさというのをここで吐き出されたりすることもあります。大変な状況を発見した時や、見過ごせない家庭を行政の方にお伝えできたこともあります。
気になるご家庭は、行政と共に特に注意して対応しています。

 

地方都市ならではの病児保育のあり方

-実は私はこの越前市に生まれ、高校卒業まで暮らしていました。ずっと働き続けている同級生は今女性管理職などにもなっています。友人達は親と同居だったり、近くに親がいるので何かあれば助けてくれる環境でしたね。最近の共働きや祖父母との同居などの状況は変わってきていますか?

同居しているから病気のお子さんを見たい祖父母ばかりとは限らないと思います。まだ若くて祖父母も働いているとか。元気な時は看てあげられるけれど、病気の時に1日看るのは負担が大きいとか、反対にお嫁さんから何か言われるのは嫌だからプロに任せたいという祖父母もいます。また薬を飲み間違えてしまうと恐いから病気の時は祖父母に看てもらいたくないという保護者の方もいます。いろいろですね。

-福井県は保守的なところもあるように思うのですが、小さな病気の子どもを他人に預けることにマイナスなイメージを持つ人はいないですか?病気の時ぐらいは親が看るべきとか。

病児保育に対してマイナスイメージを持つ人もいると思います。なんとかなる方は(病児保育を)利用しなくていいと思います。預ける先がないとお仕事が続けられないひとり親の方とかは、うちがないと困ります。パートで仕事を休んでしまうことで職を失ってしまう場合もあると聞きます。

また、お子さんが回復期で保育園や学校をお休みしないと行けない時、保護者がイライラせず、お子さんの遊びたい気持ちを満足させてあげられる環境も必要です。

3日間お熱が出た時に1日目は仕事を休むことができた。でもどうしても2日目は抜けられない仕事があって、その日のこの時間のどうにもならない時だけ預かってほしいとか、病児保育は選択肢の1つとして使う場、安心感を持ってもらう場として存在しているのではないでしょうか。

病気になることが悪いこととか嫌なことと思ったり、預けることにマイナスな感情を持つことがなくなるといいなと思っています。

 

送迎対応病児保育の可能性 

―子ども・子育て支援新制度、病児保育事業にも新しい動きが見られています。そのひとつに送迎対応病児保育事業が始まっている地域があります。福井県でも福井市で始まっていますね(※)。越前市ではいかがですか?

(※福井市の送迎対応病児保育事業は「病児保育施設送迎サービス事業」として保育園などでお子さんが体調不良となり、保護者が仕事などの都合で迎えに行くことができない場合、病児保育施設の看護師が代わりに迎えに行く。)

市からもお話があって私達も可能性を探ったのですが、疑問が出てきたんです。

前日からの発症までの様子、普段飲んでいる薬、食事、排泄などお子さんの状態の聞き取りがどこまでできるのか?保育園の先生がどこまで保護者に聞き取りできて、お迎えに来た人に伝えられるのかが疑問です。

普段うちの医院に診察に来ている子の場合はできないでもないかなと思うのですが、保護者ではない人が連れてきたお子さんを初めて診察するというのはリスクがあるとも思います。

この件で市と何度かお話しをしたのですが、その懸念点が解消しないと難しいかなということで、今年度についてはまずうちの職員が各保育園を月1回訪問して保育の先生方とコミュニケーションを取ることを始めています。普段のお子さんの様子とかここを利用された時の様子をお互い話すことで情報を共有して、ここから先どうなっていくかといったところです。

-じゃあ今は準備といった段階ですね。

お迎え型病児保育事業をやる場合でも、何らかの制限を設けての送迎ですね。ここを利用したことのある人だとか、前日診察を受けて大丈夫と思って保育園に預けたけれど発熱してしまったなど、いくつか条件を設けてクリアしたら利用できるかなというのは想像しています。

-今回の子ども・子育て支援新制度では、病児保育事業の中に、地域への巡回や啓蒙活動ということが新しく付け加えられたのですが、越前市ではすでに実施されているということですね。

-最後にこれまで10年以上の歴史のなかで、思い出に残る保育を教えていただけますか。

心臓の手術をしたお子さんで、ご両親が有給休暇を使い切ってしまったタイミングで「ままのて」ができて、何度もご利用されたご家庭です。最近も時々お会いします。「ここがあの時あったから仕事を辞めずにいられて、キャリアを積んでお仕事できています」と言ってくださって、10周年の”ままのて通信記念号”でも先輩として寄稿していただきました。病児保育というのは、お子さんの日々の成長は見ることができないけれど、街で普段の買い物していると大きくなったお子さんにお会いしたり、向こうから「ままのてのせんせいやあ」と声をかけてくれるのは嬉しいですね。

 

「ままのて」スタッフ (左から野尻事務長、看護婦の三崎さん、野尻院長、保育士の青山さん)

「ままのて」スタッフ
(左から野尻事務長、看護婦の三崎さん、野尻院長、保育士の青山さん)

 

―ありがとうございました。

 

次回は『ままのて番外編』をご紹介する予定です。
野尻院長からのメッセージ「地域で暮らす」、「地域で育つ」を「地域で支える!」とは!?

 

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