一人の「やってみよう!」が親子を支える ~熱意と地域のつながりで立ち上げた病児保育~
2019.10.18
今回の認定者インタビューでご紹介するのは、鎌倉市由比ガ浜で「かまくら病児保育」を運営する佐藤まゆ子さんです。
地域の中でのびのびと保育を行われている佐藤さんに、病児保育事業の立ち上げの経緯や今後の展望についてお話を伺いました。

かまくら病児保育 佐藤まゆ子さん
病児保育で地域の役に立ちたい!
――はじめに、「かまくら病児保育」について教えて下さい。
基本は訪問型で、病児保育や元気な子の一時預かりを行っています。
保育園からのお迎え後や、元気なお子さんの一時預かりでは私の家を保育室としてお預かりすることもあります。
江ノ電がすぐそばを走っていて、ニ階の窓からは電車を上から見ることもできるので、電車の好きなお子さんはいつも大喜びです。
海も近いので、病気でないお子さんで、保護者の方が希望された時にはお散歩に行ったりもします。

歩いて行ける距離には海と砂浜も
――お子さんも楽しくリラックスして過ごせそうですね。
鎌倉で病児保育室を立ち上げる前はどんなことをされていたんですか?
以前は関西で幼稚園教諭として働いていました。
留学にも挑戦し、アメリカで保育士として働いたこともありました。
――以前から、病児保育についてはご存知だったんですか?
いえ。幼稚園で働いていた時代も、病児保育については知りませんでした。
――そうなんですね。ではどのようなきっかけで病児保育を知ったのでしょうか?
きっかけは、娘の幼稚園で役員になったことです。
ちょうど内閣府の子ども子育て会議が始まった時期で、その鎌倉バージョンが開催されることになり、父母連の代表として出席することになったんです。
その時の資料の一つに、鎌倉市の子育てに関するニーズの調査結果があり、そこで病児保育を発見しました。
――病児保育についてどのようなイメージを持ちましたか?
実はその前に、友人から病気のお子さんを預かってほしいとお願いされて、1日保育をしたことがあったんです。
その時は病児保育という言葉も知らなかったですし、事業を立ち上げるつもりも全くありませんでした。
ただ、保護者の方にどうしても仕事が休めない日があることや、病気の時に看病するだけではなく適切な保育とケアをすることで、お子さんの体調が回復して気持ちも満たされるということは、その時のことでイメージできました。
今思えば、それが病児保育を始める小さなきっかけだったのかもしれませんね。
――素敵なきっかけですね。お友達もきっと助かったと思います。
ちょうどその頃、娘が小学生になったら何か保育の仕事をしたいなと思っていて、でもフルタイムは難しいし、パートを探そうかな…なんて悩んでいたんです。
そこで友人と同じように、病児保育がなくて困っている人がいると分かって、地域の役にも立てるし、これだ!と思いました。

普段の保育の様子
熱意がつながりを生み出す
――病児保育をしようと思った時に、どうしてご自身で立ち上げをしようと思ったんですか?
鎌倉市には当時、病児保育室は一つもなく、訪問型病児保育の会社も鎌倉までは派遣を行っていない状態でした。
ニーズはあるのに誰も病児保育を行っていなかったんです。
それで、私一人でも病児保育を行おうと考えました。
――ないのならば私がやろうと。すごい行動力ですね。
いえいえ、子育て中でしたし、個人で家の近くでお預かりできると、仕事とプライベートのバランスが取りやすくてちょうど良かったんです。
訪問型ということもあって口コミづたいの方が信頼していただけるので、徐々に広まっていくような感じでした。
――1人で事業を始めることになって、大変なこともあったのではないでしょうか?
実はその時に、保育室を小さく立ち上げた知人がいたんです。
その方にアドバイスをもらったり、調べたりして、まずは病児保育の事業として申請しようということになりました。
父母連で市の方とも知り合いになっていたので、窓口で相談しながら書類を提出しました。
なにぶん前例がないので大変でしたが、地域のつながりの中だったので飛び込みやすかったですね。
――地域のつながり。良いですね。
いま相談先になっているクリニックも、立ち上げにあたって抗体検査をしに行った時に事情を話して、提携してもらうことになったんです。
もちろん急変があった際には救急車を呼びますが、相談できるのは心強いですね。
行政の方や保険会社の方、クリニックの方や保育室の方、友人など、さまざまな方にサポートしてもらいました。
――熱意で周りの人を動かして、サポートを受けていらっしゃるのが本当にすごいなと思います。
病児保育を知らなくても、共感してくださったり、説明すると分かっていただけます。
こちらが熱意を持って話せば、みなさん興味を持って耳を傾けてくださるんですよね。
ちょうど、かまくら病児保育の立ち上げの頃から、市内にも事業委託の病児保育室や民間の病児保育室ができ始め、仲間が増えていくのは嬉しいです。
自分らしく続ける病児保育
――こう言っては失礼かもしれませんが、お一人で行政に働きかけて、病児保育を立ち上げるという行動力もありつつ、佐藤さんはとても自然体でマイペースな感じがしますね。
あまりビジネスという感じはないです。空いている時間で、地域の役に立てたらという気持ちで気負いすぎずにやっています。
家庭も大事にして、自分の能力も活かしたい、やってみようか!という気持ちではじめました。
家族も全面協力してくれていて、特に娘はカードのイラストを描いてくれたり、チラシを駅で配るよ!と言ってくれたり、心強い存在です。
――きっと、そんなリラックスして過ごせる雰囲気が良いと感じる利用者さんも、たくさんいらっしゃるんじゃないでしょうか。
そうですね。ただ、お子さんの病状を把握したり、安全に保育を行うことに関しては、しっかり責任感を持っています。
資格がある心強さ
――病児保育の資格は役に立ちましたか?
はい。資格をもっていることで相談を受けることもあったり、利用者さんから安心ですと言っていただくこともあります。
やはり信頼関係がないとできない仕事なので、こちらも適切な知識を持って対応できなければいけないと思っています。
私の娘は病気をあまりしない子で、子どもの病気については知っているようで知らないことが多かったので、資格を取っていなかったらと考えると怖いです。
今でもテキストを見て勉強し直したり、心の支えになっています。
――そう言っていただけて嬉しいです。今後、さらに学んでいきたいことはありますか?
いわゆる発達障害といわれるお子さんの保育・支援について、もっと学びたいです。
やはり、お預かりの際にもきちんと知識を持った上でお子さんと関わりたいので、市の講座などに定期的に通っています。
――学び続ける姿勢がとても素敵です。
地域の病児保育ネットワークを作りたい
――これからしたいことはありますか?
行政か民間かに関わらず、鎌倉市で病児保育を担っている者どうしで連携できる仕組みを作りたいと思っています。
施設でキャンセル待ちが発生しているような時にご連絡いただけたら、1人でも多くの親子の助けになると思いますし、お互いに事例を勉強しあえたら素敵ですよね。
訪問型と施設型それぞれのメリットがあるので、保護者にとっても困った時の選択肢が多くなるのはとても良いことだと思います。
――その通りですね。お話を伺って、市内での連携が実現する日も近いように感じました。
これからも応援しています。本日はありがとうございました。