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落書き事件にみる5歳児の情緒について(後編)

2015.04.02

こんにちは。事務局スタッフのサチです。
今日は前回のつづきです。

(前回のあらすじ)

新年度になり、保育所で出欠を記録するスタンプ帳をもらい、ウキウキしていたタロウ。
しかし、ある朝登園すると、真新しいスタンプ帳にボールペンで落書きが!!
あまりのショックに声も出せず、納得できない表情で涙を落とし続けるタロウ・・・。

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WN150402-2

どう対応したものか・・・

親として、この場合、どう対応するのが得策なのか。

1.新しいスタンプ帳を、業者から取り寄せる
2.別の紙で手作りする
3.修正液で消す

散々悩んだ末に、悔しい気持ちは悔しい気持ちとして紛らす必要はなく、ちゃんと自分で消化して欲しいな、と思い。
そういう事件があって、
心の葛藤があって、
という事実を、残しておいた方がよいと思い。
「3.修正液で消す」だろうなぁ・・・と結論しました。

仕事を終えて、保育所にお迎えに行くと、タロウは面白くなさそうにゴロゴロと床に転がっていました(涙)
ハナコはハナコで、いつもなら私に向かって駆け寄ってくるのに、その日はチラリと私を確認したなり背中を向けて、いっこうにこちらに来る気配はなし。(苦笑)

かがんで、まず、タロウに話しかけてみました。
「ただいま」
「おかえり」
「どう?元気でてきたみたい?」
「いや。」
「・・・・」
そこへ先生が登場。
「タロウちゃんと担任で、じっくり話し合った結果、修正液で消そうという事になりましたが・・・」
「ハナコちゃんが一度も『ごめんなさい』をしないのが、タロウちゃん的に納得いかないようです」

先生の対応としても、「修正液」なことに安心するとともに、
なんでハナコが謝らないのか、私自身も納得がゆかず。
当時の私は「なんて素直じゃない!」と憤っていたわけですが。

エリクソンとブリッジス

保育の勉強をする中で、「エリクソンの社会的発達段階説」という物に触れると、このハナコの態度は2歳児としては当然なのだ、とわかりました。
エリクソンの社会的発達段階説によれば、

自分の道徳的な基準や自尊心に照らし、自律的な基準で判断できるようになるのは、幼児期後期(おおむね4~5歳ぐらい)になってから。
それ以前の子どもは、「自分が悪いことをした」という気持ちが育っていないので、自発的な「ごめんなさい」を求めるのが無茶なようです。
(小さな子が「ごめんなさい」するのは、心から悪かったと思って言っているわけではなく、親や先生に促されたから言っているだけ)

※文科省の「各発達段階における子どもの成育をめぐる課題等について」にも、幼児後期(3~6歳頃)の課題として「善悪の区別についての学習と良心の芽生え」があげられています。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1285897.htm

また、タロウが落書き事件に直面した際に「怒り」ではなく「失望」の涙を流したことは、ブリッジスの情緒の分化に一致しています。
浅学なので難しいことはよくわかりませんが、ブリッジスは下記のように言っています。

「新生児の情動は興奮だけであるが、そこから快と不快の2方向が分化し、さらに快から得意、大人に対する愛情や喜びが分化する。
また不快からは怒り、嫌悪、恐怖、嫉妬(しっと)が分化する。そして、2歳ごろまでには人間としての基本的な情動が出そろう。
幼児期になると、羨望(せんぼう)、失望、不安、羞恥(しゅうち)、希望などの情動も発現し、5歳ごろまでには大人にみられる情動のほとんどが出そろってくる。」

ブリッジスの情緒分化図

(ブリッジスの情緒分化図 / 「図解子どもの事典」谷田貝公昭 を参考に当協会で作図)

単純な「怒り」という感情だけだったタロウが、いつのまにか「失望」という感情を身につけていた、ということでしょうか。
自分の子育ても、発達段階の研究諸説に照らし合わせると、また違った角度から楽しめますね。

さて、この事件の顛末。

もう一度、タロウに向き合う。
「ママ、タロウに元気出してもらおうと思って、プレゼント買ってきた。」
「え?なに?」
「なんだと思う?」
「わかんないよ」
「あのね、お花。」

店先で目が合った、淡い色のスイートピー。
とても優しい色で、心が温かくなる感じ。
合わせて束ねられたバラは、
元気が出る黄色。

直感で買ってしまったけれど、
タロウが喜んでくれるのかどうか、ちょっと心配でした。
が、心配は不要だったようで。

「え~!!お花!見たい!ありがとう!もう帰ろう!」

タロウはスッと立ち上がり、
満面の笑み♪

夜中に修正液でスタンプ帳を補修して、一件落着となりました。

終わり

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